京つけもの ニシダや

京都から全国区へ。ニシダやに溢れるおもてなし

第一章 市バスに揺られ、京都・今熊野へ

 乗り込んだ市バスは、祇園、八坂と通り抜け、東山七条へ続き、住宅地を抜け交差点に差し掛かったところで、信号待ちの為一時停止した。夏の日差しを避けるように、ニシダやのロゴの入った大きな紙袋を手にした女性は足早に横断歩道を横切った。目的のニシダやは近いようだ。
今熊野のバス停留所で降りると、レトロな商店街が広がっていた。

近くに新熊野神社があり、樹齢900年を超えるという大楠が商店街を覆っている。
少し行けば泉涌寺や紅葉の名所で知られる東福寺があるらしい。
その今熊野商店街の北端の角を東に入ったところにニシダやがあった。
ニシダやはこの地に生まれて今年で89年を迎える。

レトロな趣きのカウンターに店員さんがいて忙しく接客をしている。お客さんが、ひっきりなしにやってきては「2つ」「5つ」「包みで」と慣れた様子で買い物をする。
よく見ると坂の上に駐車場があり、近所からだけでなく車でわざわざ買いに来る方も多いようだ。

第二章 受け継がれるニシダやのバトン、三代目女将の素顔

 「今日はようこそお越しくださいました」店舗を眺めていると、ひまわりのように明るい方が突然現れ声をかけられた。ニシダや女将 辻村薫さんだ。さっそく、取材を始めさせていただくこととした。
京都でしば漬と言えばニシダやさん!と私たちプロジェクトメンバーも何人も口を揃える。
これほどまでに京都人に愛されるニシダやのしば漬とは何なのか、その秘密に迫りたい。

女将となったものの、初めから漬物に詳しかったわけではないと言う。多岐に渡る商品、使う野菜や出したい味によって酢や醤油を使いわける店独自のレシピの数々。先代も見て覚えろ、の考えであったため工場に頻繁に足を運び、義父である二代目店主に師事するなど、習得への苦労があったようだ。女将が手振りを交えながら「先代に尋ねても、『これは大体な、こういう分量でな』って。マニュアルが無いんですよ」と笑い「まだまだ勉強中です」と付け加えた。

第三章 年間40万個売れるしば漬「おらがむら漬」

 京都のしば漬と言えばニシダやと言われるまでになった看板商品のおらがむら漬だが、京都人を夢中にしたその魅力を紐解いていきたい。

 漬物はどこの店にもあるが、おらがむら漬だけがちゃんと包装してある、と同行者が言う。
包装紙の色鮮やかな大原女のイラストは、どこの店頭でもかなり目を引く存在だ。このイラストは商標登録され、ニシダやのアイコンとして広く認知されている。
聞けばこのイラスト、初代店主が丼や茶碗をひっくり返して円を描き、中央に大原女を描いたものという。「今ではビニールでパッキングするので、もう漬物の水漏れはないのですが、このロゴで思い出してくださるお客様も多いので、紙の包装をやめられないところです」と女将は手元のおらがむら漬を見つめて優しく微笑んだ。
今でこそ、スーパーや百貨店で簡単に手にできるようになったおらがむら漬だが、「昔は地元の人たちが、店の前に毎日長い長い行列を作ってましたわ」と今熊野出身の同行者が昔を懐かしむように目を細めた。

 オンラインショップを覗くと、なんともニシダやらしいバラエティに富んだラインナップが並び、あれこれ目移りしてしまう楽しさがある。定番の漬物だけでなく、季節のおすすめ、記念日ごとのギフトセット、お漬物以外のニシダやグッズとワクワクする商品ばかりだ。「お漬物を余らせてしまった」というお客様の声をきっかけに作られたお漬物アレンジサイトや、趣向を凝らしたスタッフブログなど、いつ訪れても新しい発見がある。
また、毎月おすすめのお漬物が届くニシダやらしい「定期便」が大変好評とのこと。8月の定期便は女将特選のレトルトカレーとカレーに合うお漬物がセットになっている。「そういえばなぜカレーには福神漬けなんでしょうね」と同行者がぽつんと言うと、「カレーには福神漬けだけでなく、ニシダや特製のワインらっきょう、はりはり大根漬、きくらげの佃煮など甘酸っぱいものが合いますよ」と女将が声を弾ませた。これは是非試してみたい。

第四章 「おいしい・楽しい」が溢れる温かなおもてなし

おらがむら漬をはじめとする漬物だけでなく、ニシダやではバラエティに富んだラインナップが揃っている。

「今のニシダやがあるのは、京都のお客様が支えてくださったおかげです」と女将は言う。最後に、女将が大切にしていること、お客様への思いをお伺いした。

 ニシダやを訪れると、お客様の食卓を暖かく見守り続ける女将、スタッフがおり、地元のお客様の大きな愛情に触れることができた。明るい店内にはお客様との変わらないやり取りが今日も続く。 食卓の名脇役であるニシダやの漬物を食べるとき、その温かさ、爽やかさがそれぞれの家庭の一食に彩りを添えることであろう。「おいしい、楽しい」が溢れるニシダやのお漬物を買いに、是非今熊野まで行ってみては。

番外編 職場や家庭で!広がるニシダやの味

友人や同僚から届いた”おいしかったよ”の声

宇都宮 真実Mami Utsunomiya

愛媛勤務。京都に長く暮らしたため、京都は庭のように思っています。京都でうまいもんを買い、家でちびちび食べるのが人生の喜びです。