伝統を守り、そして新たな流行を作り出す
♪京の五条の橋の上~
牛若丸と弁慶が橋の上で決闘―
そんなシーンをモチーフにした、御所人形の石像を見ながら車で五条通をさらに東に走らせると、右手にあるガラス張りの近代的な建物に目を引かれる。ここが、今回ご紹介する「半兵衛麸」だ。
元禄二年(1689年)の創業以来、三百年以上に渡り伝統的なお麸やゆばを作り続けている半兵衛麸は、京都の人ならずともご存じの方が多い名店。
しかし、最近では食生活の変化で、味噌汁にお麸を浮かべて食べる、ゆばを家庭で楽しむ、ということが少なくなってきている。
そんな中「もっとお麸やゆばに親しんでもらおう」と半兵衛麸が2022年にオープンしたのが「Cafe ふふふあん」。
新しい取り組みと伝統を守り続けることについて、代表取締役社長の玉置剛さんと、取締役であり人生のパートナーでもある玉置淳さんにお話をお伺いしました。
新たな取り組みは「若い世代にもファンになってもらいたい」 という思いから
半兵衛麸として新しい商品を提供していこう、というきっかけは何だったのでしょうか?
剛さん:
「麸・ゆば=和食」というイメージが強く、食生活が変わる中、麩やゆばの出番が少なくなってきました。
今、我々の問題としては、お客様が高齢化しており、どうしても若い方の興味が薄れているということ。
若い方にもファンになってもらいたい、という思いから新しい商品やメニューを情報発信することで、今までと違った需要が生まれるのではないか?と思ったのがきっかけです。
Cafe ふふふあんはSNSも積極的に情報発信をされていますね
剛さん:
毎月、社内の会議で、どのようなSNSの見せ方をすると興味を持ってもらえるかを検討しています。
例えば、麸はクセが少ないので、色々な料理に使っていただけるのですが、物珍しさで「ピザを生麸で作りました!」と発信するだけでは一過性で終わってしまいます。生麸だからこその独特の食感とか、プラスで生まれるものも含めて、皆さんに発信し続けたいと思っています。そのため、社内に目安箱を置いたり、お客様からのアイデアをもらったり、色々な工夫を続けています。
朝ごはんのお味噌汁にお麸を浮かべて・・という機会は、旅館に出かけたときの朝食くらいで、めっきり少なくなった気がします。
「もっと幅広い世代に、色々なシーンで親しんでもらいたい」
そんな思いがきっかけとなってカフェやランチメニューの提供を始められたと聞いて、もっと老若男女、たくさんの方にその味や良さを味わってもらいたい、と思ったのでした。
伝統を守りながら、新しいものを作り出す・・・半兵衛麸と「町人の哲学」
老舗(しにせ)という言葉をあえてつかわない、とお聞きしたのですが
剛さん:
老舗(しにせ)は「老いた店」と書きます。
これは先々代が非常に嫌った言葉で、人間は老いて、人生の終焉を迎えてしまう。
商いに例えるとよくないので、「しにせ」は老いた店ではなく、「しんみせ=新しい店」にしなさいということでした。
とはいえ、三百年の伝統を続けることは大変なことではないでしょうか?
剛さん:
我が社には社訓が二つあって、その一つが「不易流行」という松尾芭蕉の言葉です。
「不易流行」という言葉について、先代(十一代目)からは、電車を例に教えられました。
私は十二代目ですが、先代は十一代目、11号車の車掌や、と。
11号車は自分がこうあるべきだ!と進めるが、12号車は同じ内装でなくてもよい。
例えば、「ワシ(先代)が普通車を作ったのなら、次はグリーン車を作っても良いし、食堂車を作ってもよい。そこはその時代をみて、その時の車掌が作っていけばよい」と。
ただ11号車と12号車をつなぐジョイントの部分は同じものでないといけない。そうでないと脱線してしまう。
ジョイントは「不易流行」の「不易」ということです。本質は、変えないが、流行、つまり常に進化は必要であるということです。
そういう意味では先代から柔軟な考え方があったのですね
剛さん:
「柔軟」というよりは「先(流行)を見なさい」ということ、そして「流行を作り出す」気概を持ち、自ら作っていく事が大事だと言われていました。もともと、生麸やゆばは、「ハレの日」に食べるものでしたが、もっと日常的に食べるものとして広めたいと思い、普及に取り組んできました。理想は「流行を待つ」のではなく、「流行を作り出していく」ことです。
伝統も大切にされていることが伺えますね。おくどさん(京都古民家のかまど)や井戸もありましたので・・・
淳さん:
バブルの頃には、おくどさんや井戸を残す、という発想がなかったのですが、先代が「絶対に潰したらあかん。残すことを考えないといけない、こういうのは魅力に感じてもらえるだろう」と申し、「茶房 半兵衛」をOPENするときに、おくどさんや井戸を見てもらえるように改装をしました。
今でこそ「町家でお食事」というのは流行っていますけど、当時は「お台所を見せるなんて、なにをしてはるんや!」という感じで見られたものです。先代は、「流行ってるからやる」というより、「流行らせる」ことを考えていたのです。
今思うと、先駆けを作り出していたのですね。
半兵衛麸に保存されるおくどさんと地下貯蔵庫
石造りの洋館(昭和25年築)を改装して作られた「茶房半兵衛」から観たお庭の景色。
本店五条ビルからお庭を囲む「回廊」を通って京町家に通して頂いたのですが、近代的な建物と喧騒から回廊に抜けた瞬間に、私たちが「わぁー」というなんとも言えない声を上げるような「美しい」と一言では言えないような空気感に包まれました。
これも古きよきものを残すことと、新しいものとの調和、そして流行を作り出す「先見の明」の賜物であると感じたのでした。
受け継がれる三百年のバトン
最後に、先代から受け継がれる中で、大事にされているものは何でしょうか?
剛さん:
先代は先見の明があって「こうやったら良い」ということを当ててきた人でした。
当然同じ人間ではないので、真似すべきところと、違うところを考えることが大事だと思っています。
(言っていいのか・・とおっしゃりながらも)正直言って、三百年のバトンって重いんですよ(笑)
正直、プレッシャーは感じています。
淳さん:
ただ、十二代目は先代と違いサラリーマンを経験したこともあり、従業員はこういう考え方なんだ、ということの感覚を持っていてすごい。優しく考えられるのかな、と思います。先代の考え方とは少し違うな、と私は感じますね。
剛さん:
半兵衛麸に入るときに先代からは「3つのことが良いんだ」と言われました。
それは「若もん」と「バカもん」と「他所(よそ)もん」やと。
私は40歳のときに入ってきたので「他所もん」にあたりますが、先代からは「他所もんは目線が違う。なぜこんなことをしているの?というように違う目線で物事を見られる。他所もんは他所もんで、自分の考えを活かしていったら良いんだ」と言われたことをすごく覚えています。
「違う目線で物事を見る」ということはとても大事だということですね
剛さん:
私は、全く別のところで育ってきたので、その経験を活かして、プラスに変えることが大事。ちょうど今言われている「多様性」にもリンクしているように思います。皆の方向性があっていれば、総合力でやっていけるのです。
「正直、三百年の伝統のバトンは重たい。でも、『違う目線』で物事を見て、それをプラスに変える事が大事だと思う」
そんな社長の剛さんの言葉は今、転職などで悩んでいるサラリーマンにとっても、大きなヒントと希望を与えてくれる言葉なのではないでしょうか。
そしてなにより、良き人生のパートナーでもあるお二人の「信頼関係ある絆」を節々に感じたことがとても印象的でした。
「この先もまだ、新しいことを考えておられるのですか?」という質問には、
「はい、まだまだこれからも色々なことを考えています」
その言葉と力強い視線の先には、未来を見据えた新しいアイデアがまだまだあるのだな、ということを感じました。
半兵衛麸本店の本玄関(町家)にて
◼︎半兵衛麸 本店
〒605-0903
京都市東山区問屋町通五条下る上人町433(五条大橋東南側)
TEL 075-525-0008 / FAX 075-531-0748
フリーダイヤル 0120-49-0008
営業時間 10:00~17:00(定休日:水曜日)
【交通アクセス】
・京阪電鉄「清水五条駅」2番出口よりすぐ
・京都市営バス「河原町五条」停留所より徒歩約5分
https://www.hanbey.co.jp/
Instagram @hanbey1689
◼︎Cafeふふふあん 半兵衛麸がプロデュースするカフェ
半兵衛麸 (五条ビル3F)
営業時間 カフェタイム 10:00~11:00
ランチタイム 11:00~13:30
スイーツタイム 13:30~17:00 (16:30L.O.)
(定休日:水曜日)
Instagram @fufufuand_by_hanbey
番外編
池田 昇Noboru IKEDA
京都出身、京都在住。
若いころには興味のなかった京都の文化のすばらしさを最近になって感じる。
社内では、お客様のシステムセキュリティ向上の提案などを行っている。