京つけもの 大安

京都の伝統的な漬物を全身で堪能!京の“どぼ漬”教室

 創業122年となる京都の老舗漬物屋さん「京つけもの大安」。京都三大漬物の1つである「千枚漬」が看板商品であり、国産の素材にこだわり、野菜のおいしさを引き出す製法で漬物を作り続けている京都の老舗企業です。
一見、格式高く見えるこの老舗企業で5年ほど前から誰でも気軽に漬物づくりを体験することができる「京の“どぼ漬”教室」が開催されていることをご存じでしょうか。(京都では「ぬか漬」のことを「どぼ漬」と呼びます)
平安神宮や岡崎公園にも負けない、京都ならではの食の観光と体験ができる、岡崎エリアのおすすめスポットをご紹介します。

1.京都を感じながら大安本店へ

 今回、私たち取材チームは平安神宮の大鳥居前に集合し、大安本店に向かいました。目前で真上に見上げた大鳥居は圧巻の大きさです。そこから、大安本店までの距離は徒歩で10分ほどですが、京都府立図書館や京都市京セラ美術館、岡崎公園、平安神宮など、名だたる有名スポットを目にすることができます。
 取材日は平日午前中でしたが、人通りも少なく、少し冷たい透き通った空気の中で伝統的な建物や岡崎公園の緑を見ながら散策することができ、非日常を味わうことができました。

大安までの道中
※平安神宮大鳥居から京つけもの大安までの道中(岡崎公園にはポケモンの絵が描かれたマンホール蓋があるとのことで、是非現地で探してみてください)

2.手軽さ・楽しさが魅力の「京の“どぼ漬”教室」

 平安神宮の前を通り過ぎ、岡崎公園沿いをしばらく進むと、非常に重厚な佇まいの京つけもの大安本店がそこにありました。思わず「お~」と声が漏れるぐらいのオーラを感じます。1階が販売スペースとなっており、季節のものから定番のものまで、大安の商品が数多く並んでいます。到着後2階の教室へご案内いただきました。

京つけもの大安本店
※京つけもの大安本店

 教室では約60分という短い時間ながら、漬物のスペシャリストである大安の社員さんから直接指導を受けることができ、漬物作りの技術だけでなく、その歴史や文化的背景についても学ぶことができます。

 最初に漬物や大安の歴史、和食の基本などを、様々な豆知識を交えながら教えてもらうことができました。漬物ってそもそも何?最古の漬物は?なんで漬物のことを「香の物」と呼ぶの?京都に「きゅうりのしば漬」は存在しない!?漬物は野菜不足の現代人の救世主?など、すぐに周りに自慢したくなる情報が満載です。さらに、講師の方の流暢な話し方も相まって、まだ、ぬか漬体験が始まっていないにも関わらず取材メンバ全員の楽しそうな表情が印象的でした。

 ここでは、ほんの一部の豆知識をご紹介します。

<和食の基本「一汁三菜」>
 和食の基本である一汁三菜をご存じでしょうか?一汁は「汁物」、三菜は「なます」「焼き物」「煮物」のことを言いますが、全部で何品あるのが正解だと思いますか?正解は6品です。実は和食の基本として「ご飯」と「漬物」はセットであるという考え方があります。そのため、一汁三菜とご飯、そこに漬物が添えられていると「この人は和食の基本を分かっているな~」と周りから思ってもらえるとのことです。SNSで「#一汁三菜」で投稿される写真を見てみてください。漬物が添えられていない写真が意外と多いですよ(笑)

<大安看板商品「千枚漬」>
 大安は昭和38年から皇室に対して千枚漬を献上されています。品目ごとに献上できる企業が決まっており、千枚漬を献上できるのは数ある漬物屋さんの中でも大安だけとのこと。大安社長が宮内庁まで足を運んで手渡しされているそうです。毎年12月にはこの皇室に献上している千枚漬と全く同じ製法の千枚漬が販売されるようですので、是非皆さんも味わってみてください。


※漬物の歴史や和食の基本について講師の田鶴さんにご説明いただきました

 そしていよいよ、ぬか漬体験です。大安のぬか漬作りのステップはなんと4つだけ!
「米ぬかに水を入れる」「米ぬかに大安特製の熟成ぬか床を加える」「野菜を下処理する」「ぬか床に下処理した野菜を埋める」
 一般的に、ぬか漬作りは、サラサラとした米ぬかに水や野菜くずを入れて1週間かけて徐々に発酵させ、ぬか床を作るところからスタートします。この方法だと、時間がかるだけでなく、上手く発酵しないこともあり、挫折する人が多いとか。
 大安の教室では、店舗で実際に漬物を作るときにできた発酵済みのぬか床を使用することで、簡単かつ状態よく米ぬかを発酵させることができるため、本格的なぬか漬を誰でも手軽に作ることができます。企業秘密とも言える、自家製のぬか床を提供して大丈夫なのかなと心配に思いましたが、お客さんに漬物づくりをより楽しんでもらい、身近に感じてもらいたいとの想いから提供しているとのことです。

ぬか漬体験道具
※ぬか漬体験の道具(立派な野菜も大安で実際使われているものです)


※ぬか漬作りの手順はシンプル!(左:ぬか床作り、中:下処理した野菜、右:ぬか床に埋める)

 所要時間15分。最初は、長時間の作業を覚悟していましたが、こんなにも簡単にできるのかと感心しました。漬け込んだキュウリやナスは2、3日後、ニンジンは4日後がおススメとのこと。自分の漬けたぬか漬がどんな味になるか非常に楽しみです。

 所要時間15分。最初は、長時間の作業を覚悟していましたが、こんなにも簡単にできるのかと感心しました。漬け込んだキュウリやナスは2、3日後、ニンジンは4日後がおススメとのこと。自分の漬けたぬか漬がどんな味になるか非常に楽しみです。

 今回作ったぬか床は定期的にかき混ぜてメンテナンスを欠かさなければずっと使うことができるそうです。ぬか床に含まれる乳酸菌は空気が苦手であるため、定期的に空気と触れている面とそうでない面を入れ替えることで殺菌でき、ぬか床が長持ちするとのことでした。最近流行のSDGsをはるか昔から体現しているぬか漬はすごいですね。
 また、ぬか床1gには乳酸菌が1億匹いて、今回のぬか床の場合は約2000億匹もいるとか!?講師の方からは「家に帰ってからは、2000億匹の乳酸菌を育てる覚悟を持って、愛情を持って育ててほしい」とのことでした。少し、脅かされましたが、冷蔵庫に保管していれば、3日程度は混ぜなくても大丈夫とのこと。それなら、ずぼらな人でも乳酸菌2000億匹を育てることができそうです。

3.なぜ、漬物教室に力をいれているの?大安社長の想いとは

 体験教室の後に大安の大⻆社長にお話を伺うことができました。
「漬物って古臭いようなイメージがあって、若い方からあまり好まれていないという現実があるんですけど、漬物って体にも良くて、美容にもいいような、先人が考えたスーパーフードだと僕は思っているんですよ。今、科学的にもそれが解明されてきたので、もっと広めていきたいし、でもそれだけでは面白くないから、楽しんでいただきながら、お漬物に興味を持っていただきたいなと思っているんです。」
 この体験教室を実現するにあたっても、多くの人に漬物を楽しんでもらえるように様々な試行錯誤を行ってきたのだとか。

大角社長
※インタビュー中の大⻆社長

 そもそも、漬物屋さんの多くは、発酵したぬか床からぬか漬を作ることはないそうです。本来ぬか漬は、発酵する前のサラサラした米ぬかに天日干や下漬した野菜を入れ、重しを乗せ、最適な温度と湿度で2週間程度ゆっくり時間をかけて発酵させることで、ようやく店頭に並ぶ漬物が出来上がります。ただ、この方法だと、ぬか漬教室で教えるにはあまりにも時間がかかる。そのため、本格的な、ぬか漬を簡単に作る方法を1から模索したそうです。さらに、体験教室のお客さんにより楽しんでもらうために、様々な豆知識を仕入れては、正しい情報かどうか1つ1つ確認し、今の楽しみながら体験ができる体験教室ができあがったとのことでした。
 始めた当初は大⻆社長や一部の従業員の方しか講師ができませんでしたが、より多くの人に知ってもらえるようにとマニュアル作成や従業員の教育まで行い、今では営業部員のほぼ全員が講師として教えることができるそうです。

4.「本質」を大切にしながら形を変えていく。こんなところにも漬物が!

 大安では、若い方を始めとした多くの方にもっと気軽に楽しく漬物を楽しんでもらうために、体験教室だけにとどまらず、漬物を個包装にした「ちいさなだいやす」や製造の過程で出てしまう野菜の残渣を使った発酵化粧品「至貴/SHIKI」、ぬか漬のサブスク「365yasai」などの新しいことへのチャレンジを続けています。

ちいさなだいやす
※ちいさなだいやす

発酵化粧品「至貴/SHIKI」
※発酵化粧品「至貴/SHIKI」

 「伝統っていうのは革新の連続。伝統を伝統のままに頑なに守りすぎると終わってしまいます。漬物も元々は家でつけて当たり前のものでしたが、お店で買うものに変化しました。最近では、男性も女性も一緒に家事を分担していこうという時代に変わってきています。そういう風に時代に応じて姿形っていうのは変えていく必要もあるのかな、なんて思っているので、本質は大事にしたいですね。」と大⻆社長。

 単身者や若い人も手軽に食べやすいように個包装にした「ちいさなだいやす」は、企画した当初、周囲からの猛反発があり非常に苦労しながらも実現した、大⻆社長の思い入れのある商品だそうです。
 それまで、京都の漬物屋さんでは、ナスとかキュウリなどの野菜がまるまる1本入った商品をお土産品として販売することが主流でした。まとめて売る方が効率的なのに、わざわざ小分けにして売り出すことになんの意味があるのかと理解されなかったようです。しかし、大⻆社長は小分けにして販売したらもっと漬物の需要を喚起できるのでは、「ちょっと食べてみよう」という一歩が次の購買に繋がるかもしれないと、市場のリサーチや周囲の説得を経て、販売までこぎつけたとのことでした。
 販売開始後、若い人から「こんな商品が欲しかった」という声をいただくだけでなく、想定していなかった年配の方にも「食べきりサイズで使いやすい」と好評いただくなど様々な反響があったそうです。伝統を守るだけでなく、次の時代に繋げてチャレンジをしていくその姿勢がすごくかっこいいですね!

 大安での体験教室を終えた私たちは、漬物を感じることができるスポットがすぐ近くにあるとのことで向かいました。到着したのは、京都市動物園のエントランス近くにあるカフェ「SLOW JET COFFEE IN THE ZOO」。なんと、ここでは大安の漬物を使った「おつけものクレープ」を楽しむことができます。

SLOWJET外観
※ SLOW JET COFFEE IN THE ZOO外観

テラス席「おつけものクレープ」
※テラス席で「おつけものクレープ」をいただきました

 SLOW JET COFFEEは他にも店舗がありますが、おつけものクレープはこちらの店舗限定です。実は大安は、2021年5月から京都府漬物協同組合の活動の一環として、漬物を作る過程で出てくる野菜の残渣を動物の餌として無償で京都市動物園に提供していたようで、そのご縁で京都市動物園に店舗を構える店長さんと繋がり、多くの人に漬物へ親しみを持ってもらいたいとの思いから、この商品が実現したとのことです。
 私たちは「しば漬」を使ったクレープをいただきました。意外な組み合わせであったため、恐る恐る口に運んでみましたが、甘いクレープ生地と、刻んだしば漬をふんだんに使ったタルタルソースの程よいしょっぱさのバランスが良く、とても楽しく、おいしくいただくことができました。

5.まだまだ続く旅の余韻

 まだまだ、それだけでは終わりません。家に帰ってからは息子と一緒にぬか床をかき混ぜ、3日後には人生初の手作りのぬか漬をいただきました。さすが大安のぬか床を使ったぬか漬、いずれの野菜もおいしくいただくことができました。今でも、「何日漬け込んだ漬物の味が好きかな」「違う野菜だとどんな味になるかな」と楽しみながら、ぬか漬作りに励んでいます。今度は大⻆社長がおススメと言っていたラディッシュに挑戦してみたいと思います。

子どもと一緒にぬか床をかき混ぜました
※ 子どもと一緒にぬか床をかき混ぜました

3日目のぬか漬
※3日目のぬか漬

 最近あまり漬物を食べていなかった取材メンバもおりましたが、今回の取材を通して、漬物が「とても楽しいもの」と感じることができました。今度は、家族や友人を連れて一緒に巡りたいと思います。
 これを読んでいただいている皆様も、岡崎エリアの探索と一緒に大安本店でぬか漬体験をしてみてはいかがでしょうか。

※今回ご紹介した、京つけもの大安の「京の“どぼ”漬教室」は、お電話またはメール、旅行サイトから申し込みをすることができます。大安の各種商品についても公式WebページやSNSで紹介されていますので、是非覗いてみてください。
大安公式HP:https://www.daiyasu.co.jp/html/page36.html
SLOWJETCOFFEE HP:https://www.slowjetcoffee.com/zoo/

清木場 大Dai Seikoba

3年前から京都に勤務。様々な老舗企業の取材を通じて、老舗企業が持つ奥深さ、京都の人の温かさを実感し、さらに京都を好きになっています。休日は家族で一緒に外に出かけるのが趣味です。子どもだけでなく親も一緒に楽しめるスポットを探すのが好きです。