【「京もの」の魅力を調査】株式会社 江村商店

伝統工芸である京友禅の魅力を一枚の器に凝縮
江村商店の新たな価値創造への挑戦


京友禅の生地をデザインや風合いそのままに硝子の器にはさみ込み制作

1.江村商店の手がける器の技術と魅力

 ―着物で受け継がれてきた伝統工芸の技術を現代に残したいー。江村商店のこの願いから考案された「着物の生地をあしらう硝子の器」は2014年より展開された。その生地には、自社で長年取り扱ってきた京友禅を始め、西陣織も取り入れている。江村和博専務は、「着物を着る人だけに限定せず、より多くの人の生活の中に身近に取り入れていただき、工芸品の魅力を感じていただきたい」と話している。着物の繊細な生地の風合い、利用シーンに応じた多様な色彩、そして巧みな技術で繰り出される緻密な模様などの魅力を根幹に据えながら、新しい価値の創造、分野の開拓に取り組んでいる。


伝統工芸を様々な利用シーンに溶け込ませるという価値創造

2.江村商店の大切にするもの

 江村商店は1917年に呉服問屋として創業。当初は京友禅のための丹後のシルク生地を中心に扱い、徐々に範囲を拡大し全国各地の反物も取り扱うようになった。江村専務は北海道の大学を経て、洋菓子作りの道を歩んでいたが、元来の「新しいことを始めたい」という思いと、「着物の技術を守りたい」という思いもあいまって、先代の後を継ぐことを決意することとなる。
 その後、京友禅の型染職人との会話を通して硝子の器に着目し、試行錯誤の末に京友禅の生地を硝子の器にはさみ込む現在の形を完成させた。菓子への深い造詣も生かし、菓子用の器も次々と開発し発表してきた。菓子の魅力を引き出すもの、菓子や利用シーンの世界観に合うもの、などアイデアは尽きない。
 一方、先代からの伝統工芸職人との絆も大切にする。「創業時から職人さんとは共に歩ませていただいてきた。今後も職人さんの技を守り、活かしていきたい。そのため、これまでに培った絆は大切にしたい」と言う。現在、伝統工芸と称される京友禅だが、江村専務は「伝統工芸も昔は伝統とは呼ばれておらず、当時の最新技術だっただろう。同じように将来に伝統と称されるものづくりを目指したい。」と展望を語る。


江村商店の「これまで」と「これから」を語る江村和弘専務

3.京友禅職人が仕上げた生地をはさみ込んだ器

 夏の炎天下の某日、執筆者の取材チームは江村商店を訪れた。通していただいたのは昔ながらの長屋の奥手にある畳のお部屋であった。窓からはきれいに手入れされた坪庭が覗く。骨董品ともいえるレトロな扇風機や電熱器に囲まれたその空間は、どこか懐かしさを醸し出している。抹茶と共にお茶菓子を出していただいたが、そのお茶菓子はなんとも上品な器に盛りつけられていた。これが事前に見聞きしていた京友禅の器であった。
 硝子の器には、京友禅の金・銀の菊の文様が透明感ある白の薄い生地に型染されはさみ込まれていた。琥珀糖のお茶菓子が器を際立たせると共に繊細で涼しげな存在感を発していた。印象的なのは、間近で器を覗くと生地の糸の一本一本までが確認でき、それらの織り成す風合いや微妙な皺などを感じ取れた点だ。薄いシルク生地に京友禅の型染職人が1つ1つ丁寧に染め上げ、これらが一枚一枚個体ごとに異なる唯一無二の器ということが繊細さにつながっていたのだと思えた。
 この硝子の器の製法は、建築資材に用いられる合わせガラスの技法が応用されたものである。反物を風合いそのままに硝子内部に閉じ込められるのが特徴だ。上面(表面)は硝子なので、極めて透明感があり反物の魅力を感じ取りやすくなっている。一方、底面(裏面)は樹脂でコーティングされているため、器を重ねて扱える上、滑り止めにもなるなど、機能面でも優れている。さらに、自動車のガラスのように破損時は飛散も防止できるという。「和と洋、古と新、柔と堅がとけあい自然な調和を保ちつつ、暮らしの中に新しい風を吹き込む」江村商店のこだわりの逸品である。


取材時にお出しいただいた京友禅の器とお茶菓子

4.京ものEXPOの出展の紹介


京ものEXPOで出展中の「京友禅のうつわ 色かさね」

 京ものEXPOでは、「京友禅のうつわ 色かさね」を出品。「新たに制作していくうえで特に形状のゆがみをデザインして落とし込み、微妙な色彩表現に苦労した」と江村専務は言う。「色かさね」は、これまでの型染による京友禅の生地をはさみ込みこんだ硝子皿とは異なり、重色ぼかしという技法で複数の色を重ねてぼかす手間のかかる技法であるが、淡い色を重ね緩やかなグラデーション生地が印象的であり、なんとも幻想的な模様が生み出されている。さらに、硝子の器自体も緩やかに湾曲させることで、柔らかさ、温もりも感じられる仕上がりとなっている。薄いシルクの生地感、友禅での重ねぼかし、器の湾曲など、一枚一枚の出来上がりはこれまでの器と同様、同じものとならない唯一無二の作品。ご家庭でのちょっとしたおもてなし。お祝いごとの贈答など、あなただけのオリジナルの器を作ってはいかがだろうか。是非、じっくりとご覧いただきたい(WEB上では現物ほど細かな確認ができない点は残念でならないが)。

5.今後の展開

 今回の訪問において、我々取材チームは、江村商店の制作品の数々の素晴らしさに加えて、新たな価値創造へのチャレンジする熱い思いを江村専務から感じ取ることができた。今後は、硝子の器だけでなく、浴衣、建材、家具などの様々な分野への「更なる可能性への挑戦」もしていきたいと江村専務は言う。また北海道でやってきた、お菓子作り、アイスクリーム作りもやってみたいと話している。
 今、江村商店は、数々の作品を築き上げるだけでなく、海外を始めとする大型展示への出展、SNSでの精力的な情報発信にも取り組み、反響が広まっている。今後の江村商店の更なる挑戦を見守り活躍を期待する。

株式会社 江村商店

◼︎株式会社 江村商店
・Home Page https://www.emura-shouten.com
・instagram https://www.instagram.com/emura_shoten
・rakuten shop https://www.rakuten.co.jp/emurashouten/

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